風の吹く丘で

日常の話

板部岡江雪斎に思いを馳せる:「人間」あっての物語、それが「歴史」

今週の「真田丸」ご覧になっただろうか。第22話「裁定」では、沼田領を巡って、北条側からは外交憎の板部岡江雪斎、真田方からは主人公の信繁、そして2者の間として徳川側からは本多正信が出廷。秀吉の前で裁定の場に立ち、それぞれの言い分を述べ、最後は秀次が裁定を下すことになった。

 

 

f:id:tsukimine:20160608020936p:plain

真田丸公式ページから)

江雪斎は沼田領3分の2を勝ち取ったものの、主君の北条氏政には叱責され、同時に徳川方を味方に引き入れろと無理難題を要求され苦しい立場に立たされる。さらに北条方は真田方の名胡桃城を奪取、業を煮やした秀吉は北条攻めを決断するところで話は幕を閉じた。

 

今回の主役は、山西淳さん演じる板部岡江雪斎であり、彼にとって苦悩の45分間であった。この先の展開を知っているからこそ、北条と豊臣の板挟みの中奔走する江雪斎に同情していた視聴者も多かったに違いない。外交憎でありながらどこか武骨な雰囲気がにじみ出ている江雪斎のキャラクターが、ここに来てより印象深いものになっている。

僕自身、「北条の外交憎」としての彼は知っていたが、経歴や、北条滅亡後彼がどのような道をたどったかは詳しく知らずにいた。彼の数奇な運命を辿ってみると、「江雪斎」というキャラクターが、より如実に頭の中で起き上がってきたのであった。

彼は小田原城が落城し、北条家が滅亡すると秀吉に捕らえられることに。しかし江雪斎の北条家に対する忠義心と潔さを気に入った秀吉は、彼を自身のお伽衆に加えた(※お伽衆:大名の相談役。武辺話や世間話なども担当する)そして秀吉がこの世を去ると、息子が徳川家に仕えていた縁もあり、今度は徳川家に尽くすことになる。関ヶ原の戦いにも同行し、小早川秀秋への調略を担当。1609年に72歳の生涯を終えた。最終的には家も残り、彼もまた、戦国時代を生き抜いた「勝者」の一人である。

北条に尽くしつつ、秀吉の権力の強大さを目の当たりにした江雪斎。北条家存続のために上方と関東を行き来し両者の仲だちをこなすという、極めて困難なミッションに対し、彼は何を考えていたのだろうか。そして最後まで北条に忠義を尽くし、そのことが自身を存命させるのだから、彼にとっては皮肉な結果だったのかもしれない。このとき彼はどのように感じ、滅んだ主家、自身を重用した氏政に対して何を思っていたのだろうか。

脚本家としてはまさに描き甲斐のあるキャラクターに違いない。彼の生き方を知ると、今度は勝手にキャラクターが立ち上がってくる。これは自分が普段から文章を書いているからなのだろうか。彼の人生というものを想像し、思いを馳せてしまうのだ。これこそが歴史を学ぶことの醍醐味であり、陳腐な言い方をすれば「ロマン」だろう。

歴史というものは、大きな流れがあるにせよ、それぞれの「人間」にはそれぞれの「物語」が存在する。優れた作家や脚本家は、虚構と真実を上手にミックスさせながら、「人間」を丹念に描いていく。「人間」あっての物語であり、それが「歴史」だと僕はそう解釈している。

フットボールにおいても、チームの物語が存在し、選手が23人いるならば、23人分の物語が当然存在する。僕はファンブロガーとして、選手一人一人にスポットライトを当て、筆を走らせそれぞれの「物語」を描いていきたいという矜持を常に持っているが、それはこのような考えが基になっている。

f:id:tsukimine:20160608021140p:plain

三谷幸喜が江雪斎を今後どのように描いていくのか、個人的には非常に興味深いテーマであり、来週以降の密かな楽しみである。ちなみに某界隈では、江雪斎が所有し、秀吉に献上した「江雪左文字」が来週登場するかどうかに注目が集まっているようだが、それもまた、歴史を楽しむ上で重要な要素の一つである(笑い)

 

www.nhk.or.jp